【連載】冬の日向ぼっこ



 クリスマスが近づくと思い出す事があります。
 あれはいつだったでしょうか。確か、私が中学生の頃だったと思いますから、もう五年以上は経っているということです。
 その年も寒い冬でした。雪もしばしばぱらつきました。積もって、でも必死に自転車をこいで、そして――。
 その日、我が家に新しい家族ができました。


 猫を飼いたい。と言い出したのは、私の一番下の弟でした。
 我が家は五人家族。父と母と、そして三人の兄弟。私が一番上の子供です。
 最初は父も母も反対しました。世話ができるのか、と訊きます。できる、と弟は言いました。
 その話を信じたのかはわかりません。けど、幸いな事に私の両親は共に動物好きでした。父は何故か動物に嫌われ、飼っていた犬に吼えられたり、噛まれたり――けど、それでも動物が好きでした。
 はしゃぐ弟に付き合って、ペットショップを訪れた私たちは二匹の猫に出会います。一匹は大人しい白い猫。もう一匹はやんちゃな黒い猫。
 両親や弟は白い猫を気に入りました。大人しくて、何処となく品に溢れた立ち振る舞いに魅了されたようです。
 けど、私は黒い猫が好きでした。元気いっぱいにはしゃぐ姿がなんとも可愛らしくて。
 両親はやはり白い猫を選びました。小さなダンボールに入れられた白い猫。大き目の籠の中には黒い猫だけ残されました。
 去り際に、私はもう一度振り返りました。映ったのは、同居人がいなくなって、やけに寂しそうにこちらを見つめている黒い猫の姿でした。


 それから、数日経ちました。白い猫は父の趣味で『ラム』と名付けられ、徐々に新しい環境に慣れ始めていました。
 最初は本当におっかなびっくり。けど、今では我が家を元気に走り回っています。
 とても可愛らしい新しい家族を皆は歓迎しました。
 けど、私はまだ――あの時、寂しそうにしていた黒い猫の事が忘れられませんでした。
 そして、父に話しました。黒い猫がとても寂しそうだった事。自分がそうなったらきっと哀しいだろうという事。
 父は一生懸命話す私ににっこりと微笑みかけました。そして言いました。「じゃあ、その子も連れてきてあげなさい」
 その言葉を聞いた途端に、私はいてもたってもいられなくなりました。そして、小さい頃からの貯金をおろして、あのペットショップへと向かいました。
 黒い猫は寂しそうに寝転がってました。その店の主人は見覚えのある客が息をきらしている姿をみて、少し驚いたような表情をしていました。
 話を聞くと、店長は嬉しそうに言いました。「この子もあの子がいなくなってから凄く寂しそうだったんだよ」
 そう言って、値段を随分と下げてもらった覚えがあります。店の人も、寂しそうな黒い猫の姿に心を痛めていたのかもしれません。


 そうして、我が家に新しい家族ができました。一匹は白くて大人しい猫。もう一匹は黒くて少しやんちゃな猫。
 とある、寒い冬の出来事でした。