痛切に
大学生活も折り返し地点を過ぎ、講義に講座にと忙しくなってきた昨今、ようやく私もダメ人間の薄皮を剥ぎ、真人間に少しずつ近づきつつあったそんな今日の出来事です。
その日も講義を受け、そして、ゼミ関連で図書館にでも行こうかと法学部校舎の小さな簡易階段を下っていたその時。
二人の学生の歓談が聞こえました。意図せずとも耳に入る距離で、私は最初こそ耳を遠ざけていましたが、やがてその努力が徒労であることを悟り、やや聞き流す感じでまったく知りもしないその二人の話に耳を傾けていました。
「なあ、そう言えば、目ェどうやった?」
え、メイドやった? 陵辱?
「ああ、ばっちし。大丈夫やったで。ちゃんと見えてる」
……。
帰宅した後は、何気なく自宅で関連書を読みながら、BGMとしてニュースを垂れ流していました。
特にそうすることに意味があるとも思えませんが、在りし日の受験生活より続いている習慣みたいなものです。既に万年床と化した布団に寝そべりながら、本に没頭していたその時。
「JR西日本の垣内剛代表は――」
え? 武内崇? TYPE-MOON?
……。
未だに深く張られた根が私を苛ませる。この数年間送った日々は、私にかけがえのない財産を得させてくれた代わりに私の中にどうしようもない楔を打ち込んだ。何がよかったかなんてわからない。しかし、そうであったからこそ、今の私は此処にいて、この小さな四畳間で途方もない密室的隔たりを感じている。
もし私が鳥であったなら、きっとこの窓を飛び出し大空へ旅立っていたであろう。だが、今はそれはできない。私は鳥ではなく人間であり、そして今この場においてそれは旅立ちではなく逃避である。
人生にIFはない。だが、それでも私はそれを求めて止まない。同時にそれが求めても届かない位置にあることを安堵する。遠く、夕闇の向こうで、鴉が一羽、哀しげに嘆いた。
ぐぅ。
「……素麺つくろ」
とりあえず、おなかへりました。飯くって寝ます。