マブラヴSS



 夢を見た。
 荒れ果てた土地で、空だけが笑っていた。人は笑っていなかった。カラスさえも泣いていた。
 無機質な巨人が軋む。鉄と鉄とが擦り合う歌。そして、それがひしゃげる歌。
 その頃には、それを聴く人はもういない。真っ赤なコックピットに群がって、カラスはもう一度泣く。
 そんな夢を見た。そして、何度もそれで起こされた。
 血の味がする。広がる。そして、俺は目が醒める。






【夢見るベビーフェイス】






 夢を見ることに意味なんかあるのだろうか。
 人は夢を見る。求めてすらいないのに、それは唐突に訪れる。
 そして、俺は誘われる。自分の意思なんて関係ない。その場所に、文字通り呼ばれ、自分の無力さを苛むのだ。
 意味があるのだとすれば、そこにリセットが効くことであろう。
 最後には誰しもが笑っている。いや、残念そうに布団を被るものもいるかもしれないが、それでも笑ってることには変わりない。
 それは、例えば意味のない娯楽を求めるのに似ている。
 だが、夢は今ある怠惰な、それでいて労力を伴う娯楽とは異なり、先天性を持っている。
 癒されることに意味を見出すのだとすれば、悪夢に価値がなくなる。
 だが、俺は敢えて悪夢に意味を求めたい。価値を感じたい。
 そして、俺はそこで気付く。苦悩するように頭を抱え、そして、空を見上げる。
 きっと、これを想うこと自体が酷く、意味のないことなのだろう。


「そんな気がするんだ」
 彼の言葉に目の前にいた少年は、ひどく困ったような表情をした。隣で空を見上げる彼の肩を叩き、自分も空に目を向ける。
「そんなことはないよ」
 少年は言った。「そういう考えってきっと大切だと思うよ。夢を大事にすることも、きっと同じくらい大切」
 そして、少年は笑う。「そうだよね。タケル」
 彼はしばし、そんな少年を見つめ、苦笑した。
「そうだよな、きっと」
 空は果てしなく青い。きっと、世界はどこまでも続いている。
 それは夢で見た空と一緒だった。どこまでもあたたかく、どこまでもやさしい。
 だからこそ、やるべきことがあった。
「あのさ、それは置いといて、ボクは男の子だよ。だから、昨日みたいなことは痛いし、できれば止めて――ひぎぃっ」
 泡を吐く少年を見下ろして、彼はもう一度蹴った。何度も何度も蹴った。
 そして、吼えた。
「紛らわしいこと言ってんじゃねーっ。つか、お前が紛らわしいのがいけないんだ! 死ね! 俺を道に戻せ!」
 彼はプロレスをあまり好まなかったが、その行為がスタンピングというものに当たることを知っていた。
 もう一度蹴る。白目で生命の危機を訴える少年の顔が、どこまでも憎らしかった。






 夢を見る。世界は崩壊し、死はいつも隣で笑いかけていた。
 彼はパイロットだった。戦術機を駆り、迫り来る怨敵を滅し、そして、自分すらも滅ぼした。
 ひしゃげたコックピットの中で、彼が見たのは彼が愛した一人の少女。今も遠い星で、きっと笑っててくれるはず。
 ――みこと。
 最後に少女の名を告げ、彼は息を引き取る。
 カァ――と、カラスが鳴いた。