だけど、僕らは挫けない。泣くのは嫌だ。笑っちゃお。



 気が付けば僕は真っ青な空の下で、風が吹いていく先を眺めていた。空の彼方を遮るものなんて何もなくて、ただ一本の境界線のように地平線が引かれていた。
 線を引いたその下は一面の花畑が延々と続いていた。赤、青、紫、黄色。種類なんてわからなかった。でも、色とりどりの花を前にして、そんな無粋なものなんかなくていいと思った。
 そして、僕はその花に埋もれて、大の字になって寝ている。空には太陽と月が出ていて、ちょうどその中間にも一つの線が引かれている。舞い上がった花びらが、そのまま彩られるように月の回りで輝く。舞い降りた星は種になって、やがて花を咲かせるんだ。
 しばらく、そんな光景を眺めた。そして、僕は唐突に旅に出ることを決めた。すぐ近くにあった花から一枚だけ花びらを取って、僕はそれに乗って旅をする。風は優しく僕らを受け止めてくれた。やがて太陽が少しだけ遠のいて、月が少しだけ近くなった。僕は手を伸ばして、届かないそれを眺めた。
 あの月をハートに削るのが、僕の使命だ。ふと、そんなことを思いついた。
 だから僕らはどこまでも飛んでいく。遥か下の花畑では、ひつじと蛙がはしゃいでいた。気取ったような猫の仕草を見て少し笑う。下りてくる星屑を浴びながら、彼らのダンスパーティはまだ終わらない。観客席の僕も、それを飽きずに見つめている。
 やがて、蛙が帰って、それでお開きになった。僕はその場に立ち上がって、遥か真下へと拍手を送った。気付いたものはいなかった。でも、それにも飽きて、ただ星を眺めていたら、唐突に猫がやってきて言うんだ。
「どこに行かれるんですか?」
 だから、僕は言った。「ハートの形をした月へ」
 その言葉に猫は大仰に驚いて、そんな猫の姿に僕もひときしり笑った。やがて、猫はまた大げさに一礼すると、
「それは素晴らしい。お供仕りましょう」
 そう言って、僕の花びらに飛び乗った。


 天の川の近くで僕は花びらから流れ星に飛び移った。乗るはずだった流れ星を間違えて、僕たちは少し遠回りすることになった。
「なんでそんなに楽しそうなの?」
 僕はえらく楽しそうな猫に訊ねた。
 すると、猫はもっと楽しそうに笑って。
「もうすぐ木星です。あの輪は、きっとすごく美味しいんじゃないかと、そう思うんですよ」
 なんて。だから、僕も遥か遠い地球から木星へと向き直って、その味を想像することにしたんだ。
 嗚呼、イカリングオニオンリング。けど。
 僕はもう一度月を見て。
 ハート型のチョコレートが食べたいな。


 ラブアンドピース。
 そう言えば、今日の晩御飯なんだろな。




 なんて世界を僕が旅してる時、現実世界の僕は保険取引実務の試験の真っ最中でした。
 こんな経験、高校時代の微分積分が試験範囲だった時の数学の期末考査以来ですよ。
 つまるところ、なんだ。
 がおー。